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曇り

ふとした夜に自分を手放してしまいたくなる。一瞬の気の迷いのような、長い自問自答の末のような。ふと、もういいかなと思う。とても短絡的でどうしようもないことをしそうになる。私は私を掴むことに疲れてしまったし、もう握力にも限界があるし、そもそも掴んでいる意味がわからなくなってきているし、むしろどうして今まで掴んでいたのだろう?とひたすら繰り返す。

「もういいだろう、もういいよね、もう十分だよ」ってそんな脳内会議。満場一致で可決されそうな所なのに頭の片隅でひたすら大声で叫んでいる声がする。「駄目だ!まだだ!」なんだよもう可決しようとしているのに空気を読めよと言わんばかりに声を張り上げて駄目だ駄目だと主張してくる奴の正体はいつだって今まで私が愛してきた人達だから困っちゃうよなぁ。

その手は卑怯だよ、と何度思っただろう。貴方達の顔が思い浮かぶのは卑怯だ。「どんな生き方をしてもいい。ただ、くだらないと思う死に方だけはやめて」と言った人がいた。その人の言うくだらないは、私が私を手放す行為そのものなのだろうとよくわかる。「生きているだけで必死でいいよ。それの何がいけないの?」と逆に質問をしてきた人がいた。純粋に私が生きてさえいてくれればいいと思っている顔で、私は何も言い返せなかった。「いつか消えてしまいそうで不安で仕方ない」と言った人がいた。何年も私に同じことを言い続けている。何年も同じ心配をさせているのだ。

自分を手放してしまいそうな夜になると、色んな人の声が頭の中に響き渡る。「まだだよ、まだだよ」と声がする。「じゃあ、いつならいいの」?と問いかけることすら許されないような、真っ直ぐな声が響き渡るのだ。自分を手放すことは容易いけれど、頭に浮かぶ顔と声を手放すことはあまりにも難しくて結局議会は否決。私はもう何年も生かされている。だってそうした願い達の純度があまりに高すぎる。「そんなことを考えてしまうくらいなら、もっとこっちへおいでよ。一言送ってこいよ」って当たり前のように言ってくれそうだから、有難うと心の中で呟いて本当に苦しくなった時に頼らせてねと笑う。本当に苦しいのだけれど、まだ貴方達の声で私は足に力が入るから大丈夫、ってそう思う。

「くだらないと思う死に方だけはしないで。それだけは約束してよ」と本気で言われた夜、私はいつもみたいに笑って誤魔化すつもりが全く誤魔化せなくて。あまりにも真剣すぎて私は受け取るしかできなかったよ。これだけは本気で約束をして欲しいんだと言われたら、笑えないでしょう。

「何かに必死な人って素敵だと思う」とそんな簡単なこともわからない?と言わんばかりの純粋な目で見つめられた瞬間は、自分はなんて馬鹿なことを考えていたんだと思わされて。この人はただ私がいるだけでそれだけでもう許してくれるのだとひしひしと伝わってきて、返す言葉が見つからなくなった。

「居なくならないでね。本当に心配してるから」と会うたびに同じことしか言われないとなんかもう取り敢えずそんなこと気にするなよって笑いかけてあげたくなってしまって。この人は私が私を手放したら本気で許さないだろうということも伝わってきすぎて。

「大好きだよ」とこちらの事など御構い無しに真っ直ぐに伝えてきてくれる人が数えるほどいるという事。そんな風に言われたら私は私をまだ手放せない。私と出会って過ごした何気ない時間を宝物だと言ってくれた人達がいる限り、私はその宝物に泥を塗ってはいけない。取り敢えず突っ立ってるだけでいいから立っててくれと言われるだろうととてもよくわかるから、はいわかりました。と私は立ち続ける。

私は今日も情けない顔だけれど必死に突っ立って居たからね。約束を守り続けているよ。

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