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雪-正常

久しぶりにお嬢と連絡を取った。なんてことない、私は今ここに色々書いていますよという報告をしただけ。向こうも淡々とありがとう、で終わった。反応があるのならばもうそれで嬉しいから有難うってなるのがお嬢。時折電話をすると3時間近く話してしまったりする。電話の内容は大抵頭がおかしいという話で、互いの間でしか通じ合えないようなふざけた事。色んな人に気にかけられて私達は生きているね。色んな人が気にかけているから、私は遠くからのんびり眺めることにしている。貴女を心配するのは私の仕事じゃないからね、って。そうだ!今年も雪が降り始めたよ。もう少し積もったら、今年も雪だるまの写メを送るから待っていてよ。お嬢はとてもささやかなことをびっくりするくらい喜んでくれる。彼女の心はいつだってとびきり透き通っている気がする。彼女には白衣が似合いそうだなと思うことがよくある。髪の毛を整えないまま研究室からのろりと現れそうな。これは犀川先生だ。犀川先生とお嬢は何だか似ているんだよ、って半分お手紙のような日記。

 

冬です!という調子になってきた。いよいよまずいなぁと切実に思う。外では雪が静かに舞っていて、室内ではヒーターが黙々と部屋を一定の温度に維持しようと頑張っている。ここに足りないのは太陽だ。夏の私と冬の私を並べたら、あまりの違いに皆驚くだろうなと思うくらい、私には太陽が必要不可欠らしい。夏は驚くほどに調子がいい。睡眠も食欲も何一つ問題無し。人との関わり合いもバッチリ。何なら、夏は食べ過ぎて太る。暑いのは辛いけれど、太陽が出ているだけで何でもできる気がする。冬は真逆である。低気圧が続いて、太陽がお隠れになると同時に私の体は活動を停止する。野生動物が冬眠に入るように、私の体もことことと眠りに落ちていく。食も欲しなくなる。野生的だね、と言えば前向きかもしれない。しかし生き物と言っても人間なのでそうは言っていられないのが問題なのだ。

冬場になると関東に遊びに出かけていた頃を思い出すと、関東で動けなかった日というのが見当たらない。風は突き刺すように痛いのに、気持ちはどこまでも晴れやかだった。天気一つで人間の体はここまで違う。ここまで違うと、もういっそ雨季は仕方ないとして東南アジアのいずれかでのんびり生きる方がQOLが向上するんじゃないかと思ったりする。日に焼けやすい私の肌は、きっと現地の人に混ざってもとてもよく似合う気がする。そんなこんなを考えながら、今冬をいかに乗り切るか、この問題にぶち当たっている。乗り越えるというより、じっと耐え忍ぶと言った方がしっくりくる。

 

尾道に遊びに行った時に言われた言葉が忘れられない。「いっそ尾道においでよ」って簡単に言ってくれるもんだから思わず笑ってしまったのだけれど、案外悪くないかもしれない。自分の人生があと何年残っているかわからないけれど、過ごすならもう冬に雪が降り続くこの地はもういいかな、と思うから。地元は嫌いじゃない。何もないくたびれた田舎だし、私のような人と違った人間は変な目で見られてしまうけれど、嫌いではない。それでももう、此処に居たいと思う理由がない以上、どうして此処で生きているのかたまにわからなくなる。人生は一度だよ、という意味を何度も繰り返し考える。たった一度だよ。

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